旅行会社や旅行業界への就職を目指しているけど、旅行会社の今の課題は何だろう。働いたことがないし、今現場で発生している課題を知りたいな。
この記事は、そんな疑問に答えます。
- 現在の旅行者の購買状況
- 旅行会社の販売における課題
- 旅行会社の商品企画における課題
僕自身、旅行会社で営業や商品企画、仕入れの業務を長年経験し、日本での旅行業経験と海外での旅行業経験の両方で課題に直面してきました。
リテーラーとランドオペレーターにおいて現場で直面した課題を元に、この記事では「現在の旅行者の購買状況」や「旅行会社の販売における課題」、「旅行会社の商品企画における課題」を詳しく解説したいと思います。
旅行会社に就職や転職をしたい人や旅行会社の現場の声を知りたいという人におすすめの記事です。
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現在の旅行者の購買状況
海外旅行をする際、どのように旅行手配をしているのかというのは、とても興味深い話です。
旅行会社を通して手配をしているのか、または自分で手配をしているのか、人によって異なり、いろんなパターンがあるでしょう。
- 旅行会社でパッケージツアーを購入
- 旅行会社で航空券購入&ホテル公式WEBからホテル購入
- 旅行会社で航空券購入&ホテルはOTAから購入
- 航空会社のWEBで航空券購入&ホテル公式WEBからホテル購入
- 航空会社のWEBで航空券購入&ホテルはOTAから購入
- 航空会社のWEBで航空券購入&ホテルは旅行会社から購入
- マイレージを使って航空券購入&ホテル公式WEBからホテル購入
- マイレージを使って航空券購入&ホテルは旅行会社から購入
- マイレージを使って航空券購入&ホテルはOTAから購入
上記の通り、いろんな手配及び購入パターンがあり、オプショナルツアーまで考えるとさらにパターンが増えます。
それだけ、インターネットで情報を簡単に得ることができるようなったため、購入先の選択肢が増えたことで購入方法も変化してきたということでしょう。
昨年、JTB総合研究所が発表した「海外観光旅行の現状2019」では、現在の旅行者がどのように旅行をして、どのように旅行を購入しているのかのデータを発表しています。
次の資料は、「性年代別旅行形態」のデータです。
このデータを見ると20代、40代、50代の男性では航空券のみや航空券やホテルを別々に予約購入をしており、旅行会社離れしている人が50%以上となっています。
また、30代の男性や女性、40代の女性も40%以上が航空券のみや航空券とホテルを別々に予約購入していることが分かります。
続いて次の資料は、「旅行商品の購入・申し込み先」のデータです。
このデータを見る限り、ほとんどの世代で旅行会社以外に当たるオンライン専門の宿泊・旅行予約サイトや航空会社・ホテルの直販サイトから購入していることがわかります。
結果、旅行会社離れが進んでいることが分かります。
以上から旅行会社の利用が減少しているというのが現在の状況です。
僕自身が旅行業界に入った時は、海外旅行のパッケージツアーを雑誌に掲載し販売をしていました。
今では考えられませんが、タウンページのように200ページ~300ページくらいある月刊誌となっており、毎月旅行商品の入稿に追われていたことを思い出します。
その頃に海外旅行をしていた人たちが今は40代、50代になっており、海外旅行に慣れて自己手配を始めたことにより、旅行会社離れを引き起こしています。
最近では、パッケージツアーの金額と自己手配の金額を比較することもよくあります。
旅行会社の販売における課題
今までに海外旅行の相談のために旅行会社のツアーカウンターに足を運んだ人もいれば、一方でインターネットを使って航空会社やホテルの直販サイトやオプショナルツアーの予約サイトを自分で調べた人もいると思います。
旅行会社もインターネットの予約サイトもそれぞれの課題がありますが、まずは旅行会社の現状や課題から見てみましょう。
旅行会社の現状や課題
旅行会社でよく直面することは次の通りです。
- 担当スタッフの知識がなかった
- ホテルについて質問しても答えてもらえなかった
- 現地視察をしているスタッフがいなかった
- インターネットで調べていたホテルの取り扱いがなかった
- 現地に確認しますという回答から数日かかった
- 航空券+ホテルの単純なパッケージツアーが多い
- テーマ性やコンセプトのあるパッケージツアーがない
10年前と比べ、現在の旅行会社が取り扱う旅行先や航空会社、ホテルなどの数はとても増えました。
また、それにより旅行会社の販売スタッフの知識ではすでにカバーできない取り扱い量になっているのが状況です。
例えば、ハネムーン旅行先として人気のあるモルディブの旅行商品は、現在約100ホテルの商品が日本では販売されています。
モルディブに6日間視察に行ったとしても、視察できるホテルの数はせいぜい12~16ホテル程度です。
これにより販売スタッフが「知らない」という状況は必然となってしまいます。
- 販売スタッフ全員が取り扱い都市やホテルの視察に行くことはできない
- 取扱商品全ての販売マニュアルはない
- 販売スタッフの知識=インターネットで調べることができる知識
- ホテル側が旅行代理店に対して勉強会を実施することはほぼない
- 取り扱い全ホテルの勉強会は物理的に不可
特に地上店舗の多い大手旅行会社では死活問題となっており、視察に行く機会がほとんどない販売スタッフの苦労が伝わってきます。
実際、旅行会社を通さず自己手配している旅行者は、それなりの知識を持っており、旅行会社が扱わないホテルの予約をしていたり、旅行商品にない都市や島に足を運んでいます。
そのため、旅行会社が旅行者よりも情報を持っているということが必ずではなくなってきているというのが現状です。
OTAなどのオンラインエージェントの現状や課題
OTAなどのオンラインエージェントで手配をした際に直面することは次の通りです。
- ウェブサイト内の情報は基本情報のみ
- 現地で発生する税金やサービスチャージ等の費用の記載がわかりにくく、現地払いも多い
- ホテルに関する質問ができない
- ホテルに関わる特別手配ができない
- トラブル対応に弱い
例えば、ホテルの客室の予約をOTAを通して予約をした後、念のためフライト情報を伝えようと思ったら、ホテルへ直接英語でメッセージをしなければならない手間があります。
また、リゾート地のホテルをOTAで予約した際、例えば、ビーチサイドでロマンティックディナーをアレンジしたいとなった場合もホテル側へ直接英語でメッセージをして、やり取りをしなければなりません。
特別な何かを手配したい場合は旅行会社を通した方が楽な場合が多いです。
また、OTAではトラブルも多く発生しています。
特に現地で別途サービスチャージや宿泊栄などの追加代金が発生したり、現地ホテル側に予約記録がないという問題はメディアでも頻繁に取り上げられていました。
僕の知り合いでホテルを経営している人がいますが、ホテルの部屋はすでに満室で空いていないのに、契約をしていないOTAのウェブサイトでは在庫ありの表示をされていたという話を聞いたこともあります。
この事例からわかることは、OTAは直接契約のホテルもあれば、二次卸しで販売されているホテルもあるということです。
- 直接契約=OTAがホテルと直接契約をし在庫管理をしている
- 二次卸し=OTAが別のOTAや旅行会社を通して購入し、ホテルの販売をしている
また、僕自身の海外勤務の経験では、ゲストが航空券と現地送迎は旅行会社で購入、ホテルはOTAで購入という旅行パーツによって購入先が異なることも多々ありました。
旅行会社で手配したガイド付きの送迎をホテルまで行った際、ホテルチェックイン時に部屋の予約が入っていなかったということがよくありました。
その際、OTAの緊急連絡先は国外となっていることもあり、国際電話のできない旅行者は旅行会社手配のガイドに助けを求めてしまいます。
結果としてホテル手配に関わっていない旅行会社側が手配に関与していないホテルのトラブルの対応をするということもよくあります。
自己手配をしている旅行者だけでは解決できないといっても過言ではありません。
- 客室の予約以外のことはホテルへ英語でメッセージをする必要がある
- OTAでの料金表示がわかりにくい
- 旅行者からはOTAの二次卸しはわからない
- 緊急連絡先が国外の場合、旅行者だけでは対応ができない場合が多い
- 旅行者はトラブル時には現地旅行会社に頼らざるを得ないことがある
このように旅行会社にもOTAにも様々な課題が見受けられます。
旅行会社の商品企画における課題
続いて、旅行会社の商品企画の課題を見ていきましょう。
旅行会社の旅行商品を見ると、同じようなツアーを取り扱っていることがよくあります。
例えば、ホテルについて見てみましょう。
世界遺産アンコールワット遺跡で有名なカンボジア・シュムリアップにあるホテルを調べてみると、口コミサイトで有名なトリップアドバイザーでの人気ランキング(宿泊者の評価順)は次の通りです。
※2020年11月現在のランキング
1位 | ビロースホテル |
2位 | クメールマンションレジデンス |
3位 | ソーケクブティックリゾート |
4位 | ハリレジデンス&スパ |
5位 | パークハイアットシェムリアップ |
6位 | モデルアンコールリゾート&レジデンス |
7位 | メモワールパレスリゾート&スパ |
8位 | ロータスブランリゾート |
9位 | ザ・プリビレッジフロアバイボレイアンコール |
10位 | モデルレジデンス&スパ |
上記トップ10の中で日本の旅行会社がパッケージツアーの商品化をしているホテルは、パークハイアットシェムリアップ、メモワールパレスリゾート&スパ、ロータスブランホテルくらいでしょうか。
もちろんホテルの質などの部分でパッケージ商品化できないこともありますが、このように世間一般的に旅行者から評価されているホテルが、日本の旅行会社では旅行商品化されていないという現状があります。
考えられる取り扱えない理由は次の通りです。
- ホテルと契約自体ができない
- ホテルのキャンセル規定が日本の標準旅行業約款に合わない
- 旅行会社側が買い取りできない
- 旅行会社側が保証金等を先に支払ってでも契約を取りに行かない
- ホテルと契約出来ても在庫が確保できない
- 旅行会社自体がそのホテルを知らない
- 旅行会社の現地斡旋で効率が悪くなるから使わない
- 旅行会社側に売る覚悟がない
単純に考えると、旅行者が実際に評価しているホテル、例えば、上記のトップ10のホテルを旅行商品化して販売すれば、売り上げも伸びると思いませんか?
しかし、それをしていないのが今の旅行会社です。
海外支店がある旅行会社こそいろんなアプローチができるので、新しいことを取り入れていかないと同じ商品を売り続けることになってしまいます。
また、取消料の規定により新しい旅行素材を仕入れできないことも実際あります。
今の日本の標準旅行業約款は消費者保護が強く、世界の中ではとても後進国並みのものです。
特に日本のキャンセル規定は海外のホテルのキャンセル規定に合わないことが多く、パッケージツアー化できないこともよくあります。
例えば、アフリカのサファリキャンプは予約時に予約金を支払うことがよくありますが、予約を取り消した場合は返金なしとなります。
そういったサファリキャンプは日本のパッケージツアーでは取り扱えません。(旅行会社がリスクを背負ってやる場合は可能)
■ 標準旅行業約款:募集型企画旅行契約の海外旅行の取消料の規定から抜粋(引用:日本旅行業協会)
- 旅行開始日がピーク時の旅行である場合であって、旅行開始日の前日から起算してさかのぼって四十日目に当たる日以降に解除するとき:旅行代金の10%以内
- 旅行開始日の前日から起算してさかのぼって三十日目に当たる日以降に解除する場合:旅行代金の20%以内
- 旅行開始日の前々日以降に解除する場合:旅行代金の50%以内
- 旅行開始後の解除又は無連絡不参加の場合:旅行代金の100%以内
このように旅行会社は、通常期は30日前から、ピーク時期は40日前からしか取消料を徴収できないということになります。
これにより、ホテルのキャンセル規定に合わなかったり、買取による在庫確保ができないということになります。
僕の海外勤務時の経験では、新しいホテルに直契約をしたい旨の話をする際、毎回ホテルの営業部長からは「日本のルールは厳しいね」(ホテルにとったら30日前からしかキャンセル料の徴収ができないため)と言われました。
OTAではよくタイムセールで「Book&Buy(ブックアンドバイ=買い取り、即時決済)」というセールをしており、とてもお得な料金で掲載をしています。
そういったことも旅行会社のパッケージツアー(企画旅行)ではできません。
*旅行会社側が企画旅行ではなく手配旅行にすれば取り扱いは可能となります。
また、旅行商品の内容が変わらない原因の1つにランドオペレーターが現地斡旋の効率化を図るために商品ラインナップを増やしていなかったり、最新情報のアップデートをしていなかったりということもあります。
それにより、新しい旅行素材の情報が日本に入ってこないということもあります。
- 日本の標準旅行業約款のキャンセル規定に合うホテルのみを扱っている
- 旅行商品が世の中のトレンドとマッチしていない
- 旅行会社は売り切る思考よりもリスク思考が高い
- ランドオペレーターが現地斡旋の効率化を重視している
- 現地の最新情報のアップデートが遅れている
近年、ヨーロッパではサステイナブルツーリズム(持続可能な観光)の一環として、例えば環境にやさしいホテルを使った商品や観光プログラムを組んだりすることが多くなりました。
日本はその点では後進国と思いますが、インバウンド(訪日旅行)が伸びたことで日本国内でもようやくそういった考えを持って観光を考えるようになりました。
しかし、一方で海外旅行を取扱う旅行会社がそういった考えを持って商品造成をしているかというとそうではありません。
そのため、航空券+ホテルの単純なパッケージツアーが多くなったり、コンセプトやテーマ性のないパッケージツアーが増えてしまうのです。
新型コロナ後には特にサステイナブルツーリズムの考え方は主流になっていくと思われます。
旅行会社もそういった考えを持って商品造成をしていかないとOTAのようなオンラインといつまでたっても競合することになるでしょう。
また、マーケティングの部分では旅行会社の企画担当者は意識できていない部分が多いです。
旅行の申込みには旅行者の性別、年齢、旅行先、旅行期間、旅行時期、価格など様々なデータが紐づいています。
そのデータを分析して、企画を進めている人は少ないように思います。
よくある企画担当者の例は、半年や1年が終わった段階で商品やホテルの予約数の数字だけを見て、商品の入れ替えをしてしまうパターンです。
それが顧客の属性や旅行形態に基づいて商品の入れ替えをしていればよいですが、そこまで意識してデータを使っている人はいないでしょう。
以上となります。
このように様々な課題を抱えた日本の旅行会社・旅行業界は、ターニングポイントに直面しています。
課題がわかった今、自分なりにどのようにアプローチしたらいいのかを考えてみてください。
それでは、良い一日を!