旅行会社の商品っていつも内容があまり変わらないな。。。旅行会社はどのようなマーケティングや戦略を行って、商品造成をしているのかな。現状の課題とかはあるのかな。
この記事は、そんな疑問に答えます。
- データから見る旅行会社離れの現状
- 日本マーケットの期待度や存在感の低下
- 旅行会社自らがレッドオーシャンに参入
- 内容の変わらないパッケージツアー
- 新しい旅行企画や商品を生み出すには?
こんにちは、ツバサです。
僕自身、旅行業界で長く働いていますが、マーケティングと戦略を持って商品企画の業務や現地での仕入れ業務を行っていました。新しい新規サービスを実施する際も同様です。マーケティングと戦略をしっかり立てることで、日本マーケットにおいて60%ものシェアを獲得したデスティネーションもありました。
最近の旅行会社はというと口を揃えて「OTAに顧客を奪われている」と言います。この決まりきったフレーズに対して、僕自身はずっと違和感を覚えていました。OTA(オンライントラベルエージェント)が右肩上がりに急成長したこともあり、エクスペディアやアゴダ、ブッキングドットコムなどの知名度が日本国内でも上がっていることは確かです。
しかし、「旅行会社 vs OTA」という構図が本当に今の旅行会社の問題なのかというと疑問です。
この記事では、旅行会社の「商品企画」におけるマーケティングや戦略を詳しく解説したいと思います。
データから見る旅行会社離れの現状
僕が旅行業界に進んだ時は、まだタウンページくらいの旅行雑誌からパッケージツアーを申し込む時代でした。今となってはインターネット上で簡単に旅行代金比較を行うことができる時代です。
旅行会社の旅行商品ブランド(募集型企画旅行)における取扱人数は徐々に減っているのが現状ですが、下記のデータは観光庁が発表した「令和元年度の主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計の速報値」に関するデータです。
区分 | 取扱人数 | ||
取扱人数(人) | 前年度取扱人数(人) | 前年度比(%) | |
海外旅行 | 1,641,022 | 1,901834 | 86.3% |
外国人旅行 | 422,777 | 507,749 | 83.3% |
国内旅行 | 28,915,451 | 33,678,792 | 85.9% |
合計 | 30,979,250 | 36,088,375 | 85.8% |
引用:観光庁「令和元年度主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計(速報)」
上記のデータから見ても、旅行会社を通した海外旅行の落ち込みは非常に大きく、毎年減少傾向にあります。
また、JTB総合研究所が発表した「海外観光旅行の現状2019」では、「性年代別旅行形態」や「旅行商品の購入・申し込み先」のデータはとても興味深い内容でした。
このデータからは男性の40代、50代、女性の40代の層においては、航空会社やホテルの直販サイト、そしてOTAを使用している割合が半数以上あるいは半数近くになっています。
つまり、旅行会社離れが進んでいるということです。
旅行会社がなぜこのような下降線を辿っているのかの本質を理解しようとしているのかは大きな疑問です。
日本マーケットの期待度や存在感の低下
僕自身、海外赴任を通して、海外の旅行業界に身を置き、他国と競合するという経験をしました。
世界から見て、日本マーケットはどのように見られているのかというと、次のように見られています。
- 数のコミットメントをしない
=プロダクションの目標が不明確 - 特典ばかりを要求する
=特典がないと売れないという先入観 - 価値にお金をかけない
=全てが無料という概念 - キャンセル規定が厳しい
=現代の旅行トレンドに合っていない - 日本マーケットはリスクを冒さない
=買い取りなどしない
海外のホテルのセールススタッフは日本マーケットは非常に扱いにくいという言葉をよく言います。
次の会話は、日本の旅行会社が海外のホテルと商談を行う際のよくあるシーンです。
〇〇〇〇ホテルです。
是非、XXXX旅行社でパッケージツアーの造成をお願いします。
オンザビーチにあるとても雰囲気の良いホテルですね。
客室も多く使いやすそうです。
カップルからファミリーまで使いやすいホテルです。
夏休み旅行向けに何かプロモーションは可能でしょうか?
夏休み旅行向けにプロモーションやりましょう。
どのようにしたらプロモーションで売れそうですか?
そうですね。それではツアー特典としてディナー1回やスパ1回を付けてください。
わかりました。
それでは3泊したらディナー1回を特典として提供します。
何ルームの販売が可能でしょうか。
。。。。。。。
特典があれば、100ルーム程の販売は可能でしょうか。
んんん。何ルームかはわかりません。
。。。。。。。
それでは50ルームはどうでしょうか?
ん。お約束できないです。
。。。。。。。
このようなシーンは日本の旅行会社のあるあるです。僕はこの事例を「くれくれ詐欺」と呼んでいます。
ビジネスシーンでは「Give & Take」というのは普通です。
本来であれば、ツアー特典をもらうのであれば、〇〇〇ルームの販売をしますというのが「ビジネス」です。しかしながら、現在の日本の旅行会社の大半は「数」に対してのコミットメントを全くしません。つまり、自分に対してのリスクを冒したくないのです。
提供する側から言うと達成は難しくても、せめて「〇〇〇ルームの販売目標とします」というくらいの言葉は聞きたいものです。
日本の隣国でもある韓国や中国は、「数」のコミットメントを積極的に行い、事前買い取りをしてでも販売をしています。そのため、海外のホテルからすると韓国や中国へ営業した方が簡単にビジネスがしやすく、事前にお金も入り、結果も残せるのです。
この「くれくれ詐欺」に加えて、日本マーケットでのキャンセル規定は旅行業法に定められている通り、消費者保護のために非常に厳しいものとなっています。現在、オンラインにおける旅行販売方法に「Book & Buy(予約後即決済)」という方法がありますが、日本のパッケージツアー(募集型企画旅行)では対応ができません。
つまり、海外のホテルからすると日本マーケットは非常に扱いにくいマーケットになっており、日本マーケットへの期待感や存在感は右肩下がりの状態となっています。
また、LCC(格安航空会社)などの日本路線就航を見てもそうです。日本への新規就航をする航空会社のニュースをよく見ますが、全て訪日外国人観光客の見込みが大きいからです。逆に日本人観光客が大幅に増える見込みがあるため、海外都市へ新規就航するというニュースは聞きません。
旅行会社自らがレッドオーシャンに参入
近年、顧客の旅行会社離れが進んでおり、航空会社やホテルの直販サイト、そしてOTAなどを通した個人手配の旅行申し込みが増えてきているとお伝えしましたが、それらの個人手配の旅行パーツというのは単純に航空券とホテルのみとなります。
それには細かなアレンジのある観光が付くわけでもなく、現地でのお得なサービスが付くわけでもありません。本当に単純な往復航空券と宿泊ホテルのみの手配となります。
しかし、最近の旅行会社はその単純な航空券とホテルのみの商品ラインナップを今もなお増やしており、戦い続けています。
つまり、OTAを競合として見ており、OTAと戦っているのです。
人のアイデアを旅行サービスとして提供できる旅行会社が、単純な航空券とホテルを組み合わせたスケルトンのパッケージツアーの造成を行い、単純なパーツ売りのみを行うOTAと競合し、薄利多売の結果、体力を消耗しているのです。
まさに自ら「レッドオーシャン」に飛び込んでいるのです。
そしてそのスケルトンのパッケージツアーを販売するために人員を使っているのです。
例えば、現在旅行会社最大手のJTBがタイ・バンコクのパッケージツアーを販売していますが、取り扱いホテル数は48軒です。(当記事作成時点の軒数)
一方でOTAのエクスペディアのタイ・バンコクのホテル取扱数は2958軒です。
もし旅行会社が1都市につき約3000軒のホテルを取り扱おうとすると1年が終わってしまいます。つまり、OTAはシステムを駆使して効率化を押し進めたシステム会社が行う販売方法なのです。
この差を見てもわかるように、取り扱い軒数が多いことがよいということでは一概にありませんが、顧客が持つ選択肢としては大いにこしたことはありません。また、日本の旅行会社では販売されていないホテルが多々あるということもわかります。
実際、OTA内で閲覧ができる口コミ評価を見てみると、日本の旅行会社では販売されていないホテルの口コミ欄には日本人宿泊客の口コミがたくさん書かれています。つまり、旅行会社で取り扱われていないがためにOTAで予約をしているということになります。
このように旅行会社自身がスケルトンツアーでOTAを競合として見ることには全く勝ち目はありません。
旅行会社だからこそ、「ブルーオーシャン」に飛び込んで活路を見出さなければなりません。
内容の変わらないパッケージツアー
それでは、なぜ旅行会社はブルーオーシャンに飛び込めるような新しいパッケージツアーを造成できないのでしょうか。
商品企画担当者のマーケティング不足
一言でいえば、商品企画担当者がマーケティングをできていない、あるいは理解していないということが原因です。もちろん、その商品企画担当者をきちんと育成できてない経営者や経営幹部の責任でもあります。
例えば、よくある例がデータ分析すらしていないということがあります。
マーケティングは基本的にデータに基づいて行わなければなりませんが、商品企画担当者がデータを見ているとしたら、デスティネーションごとの送客数、売上、粗利、稀に各ホテルへのプロダクション(予約数)です。
それらはもちろん必要ですが、マーケティングをする際は次のようなことが必ず必要になります。
- 顧客の性別
- 顧客の年齢層
- 顧客の居住地
- 顧客の渡航時期
- 顧客の旅行日数
- 顧客の旅行形態
- 顧客の購買時期
- 顧客の購買ルート
これらのデータは一例ですが、このようなデータをしっかりと分析している商品企画担当者に会ったことはありません。
こういったデータ分析をデスティネーションごとでしっかりまとめ、他の担当者と共有していくことで類似した顧客データがあれば次の一手を打ちやすくもなります。
なぜかこのようなデータ分析すらされていないかというと感覚で商品造成を進めていることとマーケティングを知らないからです。
もう1つ事例を挙げます。
僕自身、旅行会社の商品企画担当や仕入れ担当を長く行ってきましたが、海外視察では旅行商品で取り扱っていないデスティネーションやホテルの視察を多々行い、また海外の商談会へも積極的に参加しました。
しかしながら、最近の日本の旅行会社の商品企画担当者は、海外視察に行っても既存のツアーの旅程を回ったり、既存のツアーで使用してるホテルを見て回ったりする程度です。また、海外の商談会に参加する日本の旅行会社は片手あるいは両手で数える程度の数しか参加していません。さらに商品企画担当者にも関わらず、商談会を知らない、担当するデスティネーションにすら視察に行っていないということもあります。
それは、担当するデスティネーションが複数あったり、商品の料金変更の作業に追われたり、未だにパンフレットの製作に時間がかかったりと日々の業務に追われているためでもあります。そのため、旅行会社の商品企画担当者自身がインターネットで情報収集をするなど「机上の空論」になってしまい、現場・現物を見ない、知らないという悪循環な業務フローになっています。
日本の旅行会社は、ニッチなデスティネーションへ視察に行っても販売を見込めない、経費の無駄使いというような慣習があり、商品企画担当者がチャレンジできない環境になっているのも確かです。商品企画担当者は海外視察を通して、「売れる」「売れない」という判断をしなければならない立場ですが、現在は「売っている」ものをただ見に行っているだけの視察を行っているに過ぎません。
日本にある海外の観光局が行うFAMツアー(ファムツアーまたはファムトリップとも言います)にも問題があります。
本国からの指示により日本側でPRなどを行はなければならないのはわかりますが、FAMツアー自体が初心者向けのツアーが多く、日頃のお付き合いで無料参加してもらうような慣習があります。観光局が率先して日本マーケットにこのデスティネーションを掘り下げてほしいというようなFAMツアーはありません。
ランドオペレーターの観光開発不足
また、内容の変わらないパッケージツアーが続く原因として、「ランドオペレーター」が原因の場合もあります。
つまり、ランドオペレーターは現地の旅行素材を日々アップデートし、日本の旅行会社へ発信する立場にあります。しかしながら、既存のランドオペレーターのほとんどが「受け身」の手配屋になっているに過ぎません。
現地にあるからこそ、現地でできるサービスをブラッシュアップしていかなければなりません。単純にホテルや送迎の手配だけをするのであれば、誰でもできます。
また、ランドオペラ―ターは現地斡旋の効率化を重視し過ぎるあまりに新しいものを取り入れないこともよくあります。さらに海外のホテルから販売促進のためのプロモーション特典をランドオペレーターに提供しても、ランドオペレーター側で情報が止まってしまい、日本側には伝わらないことも多々あります。ホテル側にとったら、プロモーション用の特典を旅行会社に提供したにも関わらず、商品として世に出ていないということになります。
ランドオペレーターが率先して、現地の観光開発を行い、新しいサービスを提供していく、そして新しい観光素材を発信していくことが求められています。
新しい旅行企画や商品を生み出すには?
旅行会社が新しい旅行企画や旅行商品を生み出していくには、ブルーオーシャンを目指さなければならないのですが、具体的には何をしていけばいいのでしょうか。
それは、データに基づいた「旅行者のソリューションとなる顧客目線のサービス」を展開することです。
つまり、旅行会社やランドオペレーターの作業効率のために旅行会社側の「プロダクトアウト」ばかりではなく、旅行者が旅先で必要となることや求めることを把握し、それを旅行サービスとしてツアーに組み込んでいくという「マーケットイン」をしっかりと含んでいくということです。それにより、旅行商品の深みが出るようになり、OTAが参入できない領域になっていきます。
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旅行会社の商品企画担当者は必ず海外に出て、現場・現物をしっかりと見て、それを体験しなければなりません。体験していないものは販売しないというくらいの気持ちを持って商品造成と向き合わなければ、中身が空っぽの旅行商品ばかりになってしまいます。
例えば、「女子旅」のようなコンセプトを含んだ旅行商品もそうです。「女子旅」と言えば、リラックスできるスパジャーニーや甘くてカラフルなスイーツなど、女子ウケするようなパーツを組み込んだ旅行商品が数多くあります。商品企画担当者はパーツの名称だけや画像だけで判断して商品化してはならず、必ずそれらを体験した上で商品化しなければなりません。
社員が画期的な旅行サービスを企画しても、旅行商品として世に出ない場合があります。それは中小の旅行会社でよくあることですが、トップの経営者がその企画を潰してしまうということです。僕が以前勤めていた旅行会社でもよくありました。現場社員が海外視察を行い、新しいサービスの内容を企画しても、トップの経営者がその企画の内容を180度変えてしまうことがありました。トップの経営者は自らの過去の成功を現在まで引きずっています。そのため、新しい芽を潰してしまい、新しい旅行商品が結果として生み出されないということもあります。
以上となります。
このように多くの旅行会社がマーケティングや戦略を適切に行えておらず、商品企画担当者は海外にすら行けていないという現状です。また、OTAを競合に捉え、商品展開を行ってしまい、体力の消耗戦となっています。
最近の旅行会社の社員自体、「旅行」というものに対して「楽しみ」を覚えているのかすら疑問です。「旅行」に対して「熱意」があり、「旅行」を好きでなければ、そもそも良い旅行商品はできません。
「旅行」とは人生の分岐点になりうる一大イベントです。その旅行商品を作業にしてはならず、中身のあるものにしていかなければなりません。
それでは、良い一日を!
経営学の用語で、血で血を洗うような激しい価格競争が行われている既存市場のこと。
引用:コトバンク